2018-02-18【静岡県文化プログラム・スペシャルトークレポート】 消滅を前提にした芸術の在り方とは

静岡県文化プログラムのスペシャルトーク「仮設の文化–モニュメンタルなものとエフェメラルなものとをめぐる対話」が2月18日、静岡市葵区七間町の七Lab.で開かれました。パネリストは静岡県立美術館長の木下直之東京大学大学院教授と、昨年上梓された『凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力』(講談社選書メチエ)が話題を呼んでいる京谷啓徳九州大学大学院准教授。約40人の参加者が、日本とヨーロッパにおける仮設的な造形表現の歴史の一端に触れました。

タイトルにも含まれている「エフェメラル」は、ギリシア語起源の英語だそうです。直訳すると「つかの間の」「儚い」。京谷さんは「『一時的』という時間の概念が強い『テンポラリー』という言葉より、『消え去ってしまう』という儚さを感じさせるニュアンスのある『エフェメラル』という言葉のほうが、仮設的な造形物を説明するのにふさわしい」と説明しました。

木下直之さん (静岡県立美術館館長、東京大学大学院教授)

事例紹介では、まず木下さんが国内の2つの祭事を案内しました。

兵庫県姫路市の播磨総社三ツ山大祭は、なんと20年に1度しか開かれません。山の神をかたどった3体の大きな山車は、祭りが終わればなくなり、次に登場するのは20年後です。木下さんは「我々は1年単位、1月単位、1週間単位で生きている。でもこの山車は20年サイクルで出現する。そう考えたら、普段と異なる時の流れを感じて、すごく感動する」とおっしゃっていました。また祭典期間中には、街のあちこちに装飾物が飾られます。昭和初期の祭りを写した当地の絵葉書には、民家の屋根に蚊帳や布を利用した装飾物が飾られていました。しかし今ではそのような風景を見ることはできません。第二次世界大戦の空襲で姫路市街が焼け、二階屋の商家の連なる街並みが消失してしまったからです。直近の2013年の祭りのわずか4回前には屋根飾りがあったわけです。時間の意識に鋭敏になることは、これまで見えなかったものを可視化し、気づかなかった自らの感情を揺り起こす効果があるような気がしました。

続いて紹介されたのは、富山県高岡市福岡町に江戸時代中期から伝わる「つくりもんまつり」。こちらも非常にエフェメラルな祭典でした。この祭りでは、住民の手による野菜を素材にした造形物が展示されます。木下さんは、白菜でつくられた「海」などを鑑賞することが、「圧倒的に楽しい」とおっしゃっていました。傷みやすい野菜という、素材からしてエフェメラルな祭りがもたらす刹那的なイメージが、強い余韻を鑑賞者にもたらすのかもしれません。

木下さんは、自らの身体をかたどった人物彫刻で知られるイギリス人作家アントニー・ゴームリーの作品を例に、作品の経年変化まで折り込んだ展示のあり方についても考察しました。東京国立近代美術館に設置された2体のゴームリーの作品は、美術館の建物のガラスを隔てて向かい合うように設置されています。そして(当然ながら)、屋内よりも屋外の像のほうが、「劣化」が進んでいるそうです。木下さんは「美術館はモニュメンタルなものを守り続けるだけでなく、こういったエフェメラルな展示にも参加できる」と、これまでの美術館での作品取り扱いに対する新たな切り口を提示されました。

京谷啓徳さん(九州大学大学院准教授)

京谷さんは、ルネッサンス・バロック期のイタリアにおける仮設建造物「アッパラート」について主に解説されました。当時は、アッパラートを駆使した祝祭芸術が大きな表現ジャンルだったそうです。そしてときの権力者は、自身の力を誇示するためにアッパラートを利用し、プロジェクトに参加する芸術家も大いに腕をふるいました(実入りも良かったそうです)。古代ローマの凱旋門を模したはりぼての門は、教皇など要人が視察に訪れる際、現地の有力者が通り道に設けた典型的なアッパラートでした。「凱旋門を作ることで、この通りを通過する要人は古代ローマ皇帝のような人物だと宣伝できた。作品自体は残らなくても主催者は行事全体の記録を残し、ヨーロッパ各地の貴族階級に目録などを送っていた」と京谷さんは言います。

さらに、アッパラートの凱旋門には、絵の代わりに、生身の人間が絵画の登場人物に扮する催し「活人画」が付いていたケースもあったそうです。要人が門の前にたどりつくと、門の上の簡易舞台の幕が開いて、音楽が鳴り響き、活人画が姿を現したのだとか。19世紀以降、「活人画」は娯楽として定着し、上流階級の夜会などで余興として披露されたそうです。さらに清の西太后や、イギリスのヴィクトリア女王も活人画を楽しみ、明治期の日本にも輸入された他、1814年のウィーン会議でも催された記録が残っているとのことでした。凱旋門のアッパラートも活人画も、キッチュさを伴った模倣のように感じましたが、それが非日常的な空間を構築してしまうパワーには驚かされます。京谷さんは「はりぼての建造物は、比較的手間をかけずに壮大さを演出できる」とおっしゃっていました。

全国各地で多種多様な文化イベントが注目を集めている昨今、時間に関する意識も含め、仮設の建造物やエフェメラルな作品の持つ多層的な効果、可能性について知ることはとても大事な気がします。非常に貴重なお話をうかがうことができました。

静岡県文化プログラム スペシャルトークの次回(Vol.2)開催日は3月10日。

オペラ歌手の清水華澄さんと静岡市出身の漫画家しりあがり寿さんをゲストに迎え、静岡県舞台芸術センター(SPAC)の宮城聰芸術総監督がホストを務めます。会場は静岡芸術劇場(静岡市駿河区)、参加無料です。ぜひご予約の上、足をお運びください。

小林 稔和DARA DA MONDE