2017-11-18トークシリーズVol.5 まちあるきと文化プログラム「町を読み解く多様な視線のおもしろさ」

「掛川の町がパラレルワールドに」ー。11月18日に掛川市肴町の蓮福寺で行われた文化プログラムトークシリーズVol.5に参加された方なら、この言葉がそんなに大げさなものではないと、きっと肯いてくれるはずだ。今回のゲストは、架空の地方都市「中村市(なごむる市)」の創作者として知られる“地理人”こと今和泉隆行さんと、コミュニティガイド個人の思い出に基づいた観光ツアー「大阪あそ歩」や銭湯で男湯と女湯の壁越しに和歌を詠み合ってお見合いする「歌垣風呂」など、斬新な視点で社会をリミックスする企画を次々生み出している陸奥賢さんのお2人。午前の町歩き、午後の本堂での対談、参加者はいずれも刺激的で密度の濃い体験を味わうことができた。

トークシリーズVol.5 まちあるきと文化プログラム「町を読み解く多様な視線のおもしろさ」

町歩きは、二手に分かれて実施された。陸奥班が巡ったのは掛川城周辺の「ザ・観光ルート」。市立図書館や大日本報徳社のほか、本年度の文化プログラムにも採択されている芸術祭「かけがわ茶エンナーレ」の会場でもある老舗呉服店などを訪れた。陸奥さんはルートを逍遥しながら、史跡や地図だけでなく、特徴的な橋の擬宝珠や老舗鰻店の外観、冬服を着たマネキンなどを次々と撮影し、その場でSNSにアップしていった。一連のタイムラインを追っていくと「ザ・観光ルート」が、陸奥さん個人の視点で見事に網羅、再編集されていた。
一方、今和泉班は観光名所より、商店街の構造や道路の形状、バスの時刻表などインフラに注目していた。「城下町のきれいなデザインの裏側に隠されたすっぴんの町の姿を見たかった」(今和泉さん)からだ。ただ「町が豊かなので、古い建物が他の地域と比べて少なかった。過去と現在、周縁と中央の差分を知りたいのだが、東海地方は手強い」とちょっと残念がってもいた。

午後の対談では「コモンズ(共有地)」と「他者性」がキーワードになった。どちらも2人の作品や活動の基盤となっている考え方だ。今和泉さんは、現実の地図には興味のない女子高校生が、「中村市」の空想地図を見ながら積極的に会話を膨らめていたという事例を挙げて「空想」だからこそ眠っている想像力が刺激される」と述べた。陸奥さんは、自身がプロデュースした「大阪あそ歩」によって、「多様で個人的な視点が重なって、町の見え方が立体的になった」と振り返った。企画に参加したある女性ガイドは自宅をツアーのゴールに設定し、近所の洋菓子店に作ってもらった地元に伝わる伝統野菜「田辺大根」のロールケーキを参加者にふるまってくれたという。「田辺大根」という伝統を知る知的好奇心と、それをロールケーキにしてしまうそこに住まう人の姿が相まって、ツアー参加者に町の印象が残される。

トークシリーズVol.5 まちあるきと文化プログラム「町を読み解く多様な視線のおもしろさ」

今和泉さんは、爆発的な想像力を現実社会に極めて丁寧にトレースすることで普遍性≒コモンズを空想地図に与えている。陸奥さんの企画や活動は、個人の多様な視点≒他者性と過去の土地の記憶を媒介に、目の前の現実を捉え直そうとする試みだ。2人の遊び心あふれる真摯な活動やその説明には、静岡で新しい地図を描くためのヒントがたくさん詰まっていた。

トークシリーズ:これからのスケジュール

小林 稔和DARA DA MONDE