2018-02-11【トークシリーズ vol.8 レポート】アートを防災に応用するには

静岡県文化プログラムトークシリーズ第8回「災害と文化プログラム」が、熱海市の起雲閣で2月11日に開かれました。パネリストは、宮城県仙台市を拠点とするMMIX Lab代表で大学教員の村上タカシさんと出身地の同県気仙沼市で美術活動と地域振興の両者に携わっている斉藤道有さんの2人の美術家です。

「3.11メモリアルプロジェクト」の展示物で、津波でひしゃげた道路標識を来場者に見せる村上タカシさん

村上さんはまず、持参したひしゃげた道路標識を来場者に掲示しました。行政の許可を得て、海岸沿いの打ち捨てられた公共物などを収集した「3.11メモリアルプロジェクト」の展示物のひとつだそうです。道路標識は津波で流され、仙台市内の海岸に漂着したもので、津波のすさまじいエネルギーを、直感的に私たちに訴えかけてきました。

 

熊本県出身の村上さんは2016年の熊本地震発生後、「熊本ベースキャンプ」を被災地で立ち上げ、支援活動に取り組んでいます。その際、災害時の現場指揮システム「ICS(インシデント・コマンド・システム)」的な組織運営や救援物資の搬送など、東日本大震災の支援活動で培ったノウハウやネットワークが非常に役立ったそうです。

 

また活動を継続していく中で、「発災直後のライフラインが整っていないときに、アートの出番はないことがよく分かった。しかし、ライフラインが整い始めるとアートが必要になってくる」ことも強く実感したそうです。復興住宅におけるコミュニティ活動の一環である「おしるこカフェ」などのソーシャルインクルージョンは、発災9カ月後の2012年12月に始まりました。

アート的コンセプトをプロジェクトに応用し、地域の魅力や防災力向上につなげている斉藤道有さん

斉藤さんは、震災直後の2011年7月にまず、母校の気仙沼高校生写真部員と被災地域を足で歩いて写真に記録し、その写真を見ながら対話するワークショップ『MEETS』プロジェクトを始めます。震災から1年後の2012年3月11日には、3本の光の柱を気仙沼の夜空に立ち上げる「3月11日からのヒカリ」プロジェクトを開始し、以後毎年開催してきました。この日、市内を一望できる高台に、多くの市民が集まり市街地から放たれる光を眺めます。そのためには、高台に照明を配置したり、避難道を整備したりする必要がありました。斉藤さんは、「慰霊の意味合いとともに、プロジェクトの推進が避難場所でもある高台の整備につながる」と説明します。

 

東北地方に100個のツリーハウスを建設するプロジェクトは、「災害復旧ではなく、『ツリーハウスを作るために集まりませんか』と誘った」そうです。「災害後に自分たちがつくる街は、周囲にうらやましがられる場所にしたかった。復旧後の被災地は、今より良い社会、環境、楽しい場所であってほしい」という願いがこのプロジェクトには込められています。斉藤さんは「参加者が楽しんで取り組める企画を考え、結果的にそれが災害復興につながればいい」とおっしゃっていました。「避難訓練」「災害復旧」をうたわずとも、防災力の向上に寄与する複層的な企画の立て方があることを斉藤さんのプロジェクトは示唆しているように感じました。

お2人の立ち上げたプロジェクトは、いずれも過去へのまなざしと、未来への備えという視点が含まれています。そして、被災者であり美術家である村上さんと斉藤さんだからこそ、いずれも目の前の人たちの心情に寄り添ったプロジェクトが展開されているように感じました。静岡県文化プログラムが目指す、大文字の「アート」や「文化」にとどまらない、地道で継続的な広義の文化活動の先行事例としても、とても参考になるものでした。

小林 稔和DARA DA MONDE